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SAMPLE.6

湖川

「どうかした?」

煌子

「は!」

 

落ち着け煌子。彼は私の顔を知らないはず。

 

煌子

「いえ、何でも……ははは……」

 

煌子

「では、これにて――」

 

湖川

「え? ……ちょっと待って」

 

煌子

「?」

 

湖川

「キミ、バス乗らないの?」

 

煌子

「え? 歩いて行くつもりですけど……」

 

湖川

「その制服、都立高校だよね? 間に合うの?」

 

煌子

「え?」

 

湖川

「……歩いてだと、1時間くらいかかるけど……」

 

煌子

「…………」

(しまったああああ!)

私は頭を抱えて座り込んだ。

私の通っている高校は自宅から徒歩10分くらいの位置にある。

だから、その感覚でいたけど……。

 

(ここってあれじゃん。私の自宅から徒歩1時間半くらい離れてるじゃん!)

 

アホだ。アホとしか言いようがない。

 

……ちなみに私。お金は所持していなかったりする。

 

この前、スマホ修理代として中秋さんから巻き上げられた1万円が所持金全額だった。だから……給料が入るまでは金欠で……。

(ああ……せっかく久々に登校するのに……遅刻、かあ……)

私は絶望しながらも、何とか立ち上がる。

 

湖川

「……ふうん……」

 

湖川さんは顎に手をやる。

 

 

そして……。

 

彼は微笑んだ。

 

湖川

「送ろうか」

 

煌子

「あ、それは結構です」

 

即答した。

(ほとんど)知らない人に送ってもらうなんて、これ以上アホにはなりたくない。そこまで行くと、さすがに危機感がなさすぎる。

 

すると、湖川さんは警察手帳を見せてくれた。

 

――湖川梓(こがわあずさ)。

 

手帳にはそう記載されている。梓さんって言うのか。名前もイケメンだなオイ。

 

湖川梓

「俺、警察官なんだ。だから身元は証明できる」

 

(知ってます)

 

知ってるけど、やっぱり抵抗を感じる。

 

そんな私に、湖川さんは優しげな表情を見せた。

 

湖川梓

「キミ、さっきバシリスコス探偵事務所から出てきたよね」

 

煌子

「……え?」

 

未成年が朝っぱらから探偵事務所に出入りしてるのって……まずい?

 

まずいかな?

 

答えに窮した私を見、湖川さんはサッと携帯を取り出すとどこかへかけ始めた。

 

湖川梓

「あ、梶さん? 今、そちらの事務所の関係者と一緒にいるんですけど。女子高校生」

 

煌子

「!?」

 

湖川梓

「これから高校へ行こうとしてるみたいで……はい。車じゃないと間に合いませんよね。もし良かったら俺、送りますけど」

 

煌子

「!?」

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