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SAMPLE.3

 

枕に顔をうずめて「うわあ!」と叫ぶ。

 

完璧にやらかした。

でも、言わずにはいられなかった。なんだ、あの男。

 コンコン。

煌子

「…………」

所長だろうか。

 

 コンコンコン。

煌子

「…………開いてます」

 

私はベッドに座り直して、ノックの主が入ってくるのを待つ。

 

すると……。

 

煌子

「祥平くん……」

 

釣鐘祥平

「…………」

 

祥平くんは肩を竦めた。

 

釣鐘祥平

「……所長が今、取りなしてくれてる」

 

あの人クレーム対応のスペシャリストだから、と彼は付け加える。

 

煌子

「…………ごめんね」

 

私はぎゅっとベッドシーツを握りしめた。

 

煌子

「仕事だから、割り切らなきゃならなかったのに」

 

こうして自分の感情が荒ぶってしまったのは――幼い頃の自分と、あの小さな子供を重ねたからだ。

そんなの、仕事をする上で押し殺さなきゃいけない感情だった。

でも――……。

釣鐘祥平

「――雨月は、生きてるね」

 

煌子

「…………え?」

 

そりゃ生きてるけど……と顔を上げると、祥平くんは目を細めた。彼はドアに寄りかかる。

 

釣鐘祥平

「クライアント、アンタがさっき怒鳴ったとき……光が差したような顔してた」

 

祥平くんはそう言って、瞑目した。

 

釣鐘祥平

「あの人の心、ここへ調査依頼に来たときは死ぬ直前だった。でも――」

 

釣鐘祥平

「そんな彼女の心を、雨月が救った」

祥平くんはポンッと頭を撫でた。旅館の外でしてくれたように。

じわりと、目の奥が熱くなった。

釣鐘祥平

「……落ち着いたら、所長へ謝りに行こう」

煌子

「はい……」

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